人物語CASE3中札内の水にひかれてチーズ工房を起業
赤部紀夫さん(75歳)
十勝野フロマージュ代表取締役会長。
高校卒業後、森永乳業(現浦幌乳業)に入社。
53歳の頃、会社の新規事業でチーズ製造管理者に。
定年退職後に、株式会社十勝野フロマージュ設立。
3-1町の土産物になるような商品を作れないか?
むくむく湧き上がってきた
50歳代のチャレンジスピリット
函館で生まれ、高校卒業後に森永乳業(現 浦幌乳業)に就職して
浦幌町に引っ越して以来40年以上ずっと浦幌町暮らし。
身体中に“ 十勝 ”が染み付いています(笑)。
私が53歳の頃、町から「町の土産物になるような商品を作れないか?」
という相談が会社に持ち込まれ、
私も加わったプロジェクトチームで検討した結果、
チーズ作りを行うことが決まりました。
そして、私はその製造メンバーに志願。
そこから50代の新たなチャレンジがスタートしました。
メンバーで試行錯誤を繰り返しながら、
当時、訓子府町にあったホクレンチーズ研究所や、
宮城県の蔵王酪農センターに習いに行ったり、
十勝の他のチーズ工房と協力して
フランスからチーズ作り技師を招いて講習会を行って勉強したり。
同じ思いを抱いていたチーズ工房の方にも声をかけ、
私は有給休暇を利用して、毎年、年に1度、10日間ほどフランスに行き、
各地のチーズ工房を視察して作業もさせてもらいました。
これはとても勉強になりましたね。
3-2中札内の水の魅力
中札内の水道水をひと口飲んで
そのおいしさに衝撃が走った
チーズ作りに携わってすぐにその面白さに気づいた私は、
定年退職しても自分のチーズ工房を開こうと決意。
最初に考えたのは、チーズ作りに適した理想の地。
ふらりと立ち寄った中札内村のレストランで飲んだお水のおいしさにびっくり。
しかもそれが水道水と聞いてさらにびっくりしました。
調べてみると中札内村には、
日高山脈からの伏流水が湧き出る場所があちこちにありました。
帯広市や池田町への水の供給源にもなっているという。
「こんなおいしい水を牛が飲んでいるんだから、
健康でおいしい乳を出すに違いない」。
そう確信して、中札内村に工房を建てようと決意しました。
また、実際に独立する際に苦労したのが独立資金の確保。
そこで、当時北海道が実施していた起業家奨励事業の中高年部門に応募。
地元の信用金庫が始めた新規事業への資金貸出制度の融資も通り、
これに浦幌町の自宅を売却した資金も合わせ、
2000年に念願の工房を設立。チーズ作りを始めました。
3-3フランスに引けを取らない十勝の可能性
フランスを何度も訪れて感じる
チーズ適地・十勝の素晴らしさ
今でも時間を作っては、フランス視察を続けています。
何度も行くうちに、フランスの田舎に住みたいくらい好きになりました。
特にノルマンディー地方の風景、風土がいいですね。
日本では北海道から沖縄まで、乳牛といえばほぼホルスタイン。
それがフランスに行くと、
地域によって違う種類の牛で違うチーズを作っていて、
酪農の豊かさと多様性を深く感じます。
十勝は牛の種類こそホルスタインがほとんどですが、
やはり日本国内においては有数の酪農王国です。
多くの酪農家がいい生乳を作っています。
現在、十勝では30近い施設がチーズ作りに取り組んでいます。
我々が10数年前にフランス研修を始めた時に聞いた話では、
フランスには1つの町に1つのチーズ工房があるということでした。
そうなると十勝は19市町村に30カ所のチーズ工房だから、
フランス以上の密度でチーズ作りが行われていることになる。
日本のナチュラルチーズ生産量の約5割は十勝。
フランスにひけをとらない可能性を秘めていると思っています。
3-4地域や仲間との協力があってこそ
十勝・中札内の生産者仲間たちと
この土地ならではのチーズ作りを
私は牧場を持っていないので、原料乳を購入してチーズを作ります。
通常はミルクタンクローリーが4~5軒分の生乳を集荷しては、
工房に寄って降ろしていくのです。
私は自分が選んだ中札内村の平岡牧場の生乳だけを使いたかったので、
1軒目に平岡牧場の生乳を集荷してうちで降ろしてもらってから
2軒目、3軒目の集荷に行くというやり方をお願いしています。
これは地元の協力があってこそ実現できることです。
また、期間限定で特徴のある他の生乳で作るチーズもあります。
例えば帯広農業高校で夏場に放牧して
青草をたっぷり食べさせて搾った生乳で作る「若草のカマンベール」。
また、幕別町忠類にある荒川農場の生乳で作った「蝦夷農カマンベール」は、
マンガ「銀の匙」の作者である荒川弘さんの
お父さんがやっていらっしゃる農場の生乳で作っています。
これが実現できたのは、お父さんと古くからの友人だったからこそ。
中札内村をはじめ十勝には、
それぞれこだわりを持った生産者仲間がたくさんいます。
これからもチャンスがあれば、
一緒に食を通じて十勝の魅力を伝えていきたいですね。