人物語CASE5“えりも”のアザラシを観光コンテンツに仕立てた

シーカヤック・ツアーガイド

柳田勝彦さん(61歳)
えりも町出身。
襟裳岬で「柳田旅館」を経営。
カヤックを使ってアザラシを観察するツアーを
実施する「クリフカヤックス」を主宰している。

ゼニガタアザラシを語るネイチャーガイド
※内容は取材当時のもの。

5-1襟裳岬に昔からあったもの、「風」と「アザラシ」

強風を体感しにやってくる観光客
アザラシも襟裳の魅力にならないか?

野生と農業や漁業の営みとはどこでも微妙な関係を生んでいます。
でも僕は、それを二者択一の議論にするのは少しおかしいんじゃないのかと思っています。

アザラシは昔から“えりも”にいました。
共存はすでにできていたのでは。
そう僕は感じています。
でも町にはいろんな意見があるし、いろんな立場があります。
町の9割以上の税収を担う漁業との関わりを無視するわけにはいきません。
旅館業を100年以上に亘って営む家に5代目として生まれた自分が、
団体ツアーが下火となって、個人旅行が主流となった時代に
えりもの集客にどのような手を打てるか、頭を悩ませていました。
昔から生息していたアザラシを観光資源として
どう活かしていけばいいのか探るための視察を思い立ったのが
今から30年前のことでした。
行先はカリフォルニアの港町モントレー。
そこにも多くのアザラシが生息し、
漁業との共存を果たしながら観光都市としても
成功しているという情報があったのです。

フィルタ 5-1

5-2モントレーで知ったアザラシとの関わり方

怒ったシャーロックが翌朝
一から教えてくれたカヤックとの出会い

視察団の大半が帰国し、残留した僕が出会ったのがカヤックでした。
「面白そうだな」単純な好奇心からレンタルを申し込んだ僕はその事前シートの
カヤック経験項目の全てに「OK(出来る)」のサインを書いて提出。
でも実は僕にとって「初めて」のカヤックでした。
海から帰ってきた僕を待ち構えていたのはそのクラブのオーナーであるシャーロック。
「あなたのアンケートはウソばかりだ!」大変な大目玉を彼から食らったが、
翌朝シャーロックは通常の開始時間の2時間も前に僕を呼んで、
一から漕ぎ方を教えてくれました。
以来、モントレーとの繋がりは強く、ウチで集めたカヤックファンを
毎年の様にツアーとして現地に運んでいます。
カヤックを自分で漕いでアザラシのいる岩場に近づき観察する。
そんなスリリングで感動的なシーンの演出の仕方を
ここで学び“えりも”で実践しました。
襟裳岬で認知度が増したカヤックによる
アザラシウォッチングツアーの始まりです。

フィルタ 5-2

5-3えりものアザラシとえりもの観光仕掛け人のいい関係

アザラシと同じ目線の高さで
同じ好奇心を持ち合いながら

襟裳岬に集まるアザラシは3種。ゼニガタアザラシが最も多く、
他にゴマフアザラシ、クラカケアザラシと続きます。
彼らが上陸するのは岬の突端から続く岩場。
それほど沖に出ていくわけではありませんが、
カヤックの操縦には風が大きく影響します。
アザラシも風を避けて岩場に上がるので、
風の方向や強さからその日の航行コースを決めるのが僕らの一番大切な仕事。
一定以上の強さになれば中止の決断もします。
もちろん餌付けは絶対にしませんから、
飼い犬のようになれることはありません。
しかし、もともと好奇心の強い彼らの事。
常に僕らの行動に視線を向け、乳離れしたばかりの子供は
時として舟のすぐ側にやってきて並走することもあります。
僕らにも識別できる個体が何頭かいて、その顔色を窺ったりすることも。
彼らと同じ目の高さ、極めて近いところから観察することの魅力。
しかも、自らの力で漕ぐカヤックを使って彼らに近づく快感!
帰って来た時のお客さんの笑顔が
この仕事を続けてこれた第一の原動力だと僕は感じています。

フィルタ 5-3

5-4これからのえりもの観光、アザラシとカヤック

アザラシの生態観察に果たす役割
観光振興のためにできること

常駐スタッフとしてインストラクターを務めるのは僕を入れて2人。
これに、GWや夏休みなどの繁忙期に帯広畜産大学の
「ゼニガタアザラシ研究会」の学生やボート部の学生などが
助っ人として手伝ってくれることになります。
地域の仕事の創造に少しは役立っているのかもしれません。
海外からの観光客の中にも興味を示してくれる人が増えはじめました。
団体ツアーの後に個人的に体験してみて病みつきになり、
帰国を延ばし、その後も数年に亘ってやって来た韓国人がいました。
艇や装備の準備の都合で完全予約制でやってきましたが、
もう少しコンパクトな体験にすることで
当日受付もできるようなコースも設けることになりました。
岬にある「風の館」を訪れる観光客が
「あそこでやってることに今から参加できないか?」と
求めることが多くなったからです。

アザラシとの距離をきちんと取りながら、
彼らを不自然に増やすようなこともしない、
漁場に近づけるようなこともしません。
えりもシールクラブ(シール=アザラシ)という団体を運営し、
アザラシとも共存し漁業とも共存しながら、
えりものこれからの観光のことを考えていきたいと思います。

フィルタ 5-4

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